顧客と従業員がAIへの信頼を築く方法

Jun 2, 2026
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AIと従業員

多くの企業が急ピッチでAIの導入を進めていますが、その成否はAIが着実に定着するかどうかにかかっています。AIの定着には信頼が欠かせません。信頼を築く第一歩は、まずAIに対してどのような感情を抱いているかを把握し、適切な施策を講じることにあります。

そこで、クアルトリクスのチーフワークプレイスサイコロジストである同僚のベンジャミン・グレンジャー博士と私は、10万人を超える消費者と従業員を対象とした4つの独立調査を実施しました。AIとの接点や意識に関する最新の分析から明らかになったインサイトをご紹介します。

必要なのは「AIは業務を阻む障害である」という認識からの脱却

AIの利用に安心感を抱く消費者の割合は、2024年の54%から現在は48%へ、2025年は43%にまで落ち込みました。企業が責任をもってAIを活用しとていると信じている答えた顧客は、わずか29%にとどまり、AIを活用したカスタマーサービスの自動化に対して消費者が最も懸念しているのが個人データの不適切な取り扱いです。

また、カスタマーサービスを自動化しても、顧客がAIエージェントを信頼できず、本当に必要なサポートを受けるうえでの妨げとなるようでは本末転倒です。どれほど応答が迅速であっても、役に立たなければ価値はありません。それでは単に「企業が顧客体験よりもコスト削減を優先した」と顧客に受け止められるだけです。

私自身、住宅ローンの借り換えをした際にこの問題を身をもって体験しました。手続きの初日だけで金融機関から149件もの営業電話がかかってくるような、よくある手続きでの出来事です。届いた信用情報照会書を確認すると、住宅ローンに関する記載がありません。訂正を求めて発行元のウェブサイトにアクセスしたものの、案内されたのはチャットボットでした。「オンラインで異議申し立てが可能です。費用はかかりません」と案内され、一安心した直後、「回答までに1か月ほどかかります」というメッセージが表示されました。

住宅ローン金利は短期間に変動するため、1か月も待つ余裕はありません。しかし、チャットボットが返してくるのは「お客様のご不満は深く理解しております」という定型句のみ。私はあきらめてチャットを終了せざるを得ませんでした。

AIを定着させるには従業員からも信頼を得る必要がある

従業員を取り巻く状況はもう少し複雑ですが、根本的な要因は変わりません。AIが定着するかどうかを左右するのは「信頼」であり、現在、多くの組織がその信頼を獲得するために試行錯誤を重ねています。

AIを日常業務に利用する人が増えている一方で、AIに対する期待感は低迷しています。今回の調査によると、「AIが自身の業務に与える影響について、意思決定に関与できている」と回答した従業員は57%にとどまりました。「所属組織にAI利用の明確な利用基準がある」と回答した人は54%、「専門的な研修を受講したことがある」割合は50%でした。これら3つの指標はいずれも前年比で2ポイント未満の微増にとどまっています。

AIの利用目的や規約、出力結果への信頼性が明確に示されていない場合、従業員は不信感からAIを使わなくなり、会社が承認したAIを使わず、各人が使い慣れた個人アカウントや、管理外のアプリケーションを使うようになります。これでは、組織が最も避けたいデータ漏洩や誤情報の拡散、コンプライアンス上の問題を自ら招くことになります。

一方で、AIとの接点を増やすことの有効性はデータによっても裏付けられています。AIツールを毎日または毎週利用する従業員は、利用頻度が月1回以下の層と比較して、AIに対する期待感が40ポイント以上も高くなっています。実務でAIを活用し、その効果を実感する機会が増えるほど、AIを受け入れやすくなります。ただし、この好循環を回すには、利用を強制するのではなく、適切な環境と教育を提供した上で、従業員が主体的に参加できるようにすることが重要です。

「信頼」がAI普及の鍵

私たちは、組織において信頼を形づくる3つの要素 (EN)に着目し、今回の調査結果を分析しました。 

  • 能力(組織として業務を遂行できるか) 
  • 誠実さ(掲げている価値観に沿って、一貫した行動を取っているか)
  • 配慮(組織は従業員のことを本当に考えてくれているか)

多くの組織は、最初の2つの基準をクリアしています。世界中の従業員の70%が「経営陣の能力」を評価し、67%が「誠実さ」を認めています。しかし、「配慮」(短期的な利益追求より従業員のことを考えて行動しているか)に対する評価は55%にとどまります。AIの導入が失敗に終わる原因は、この「配慮」の欠如にあります。従業員に「このAIは自分たちのためのものではない」と受け止められた瞬間、定着が難しくなってしまます。

この信頼の壁を乗り越えた組織は、さらなる成果の拡大が期待できます。従業員体験と事業業績の両面で市場をけん引する優良企業(上位5%)と一般的な企業を比較 (EN)したところ、最も大きな差異をもたらしたのは「経営陣に対する従業員の信頼度」であり、19ポイントもの開きがありました。これまでも従業員エンゲージメントの向上が顧客満足度の向上につながることが和多くの支援実績により実証されていましたが、今回の調査はさらに一歩進んだ事実が明らかになりました。それは、組織に対する従業員の信頼こそが、消費者からの信頼を左右するということです。

信頼の獲得に成功している組織の共通点

AI導入において確かな成功を収め、従業員や顧客の信頼を得て自発的な定着を実現している企業にはいくつかの共通点があります。

メリットを具体的に示す

従業員と顧客の双方が「自分にどのようなメリットがあるのか」を明確に理解できているほど、定着率と安心感の向上につながります。一律の指示を出すよりも、自社に特化した研修や具体的な活用事例を示す方が、AIの利用を促進できます。

利用頻度と安心感が好循環をもたらす

AIの有用性について日頃から従業員に伝えることは大切ですが、同時に日常業務での実際の利用を支援することが極めて重要です。利用を促すことで従業員の意識が高まり、安心感と利用頻度の双方が高まる好循環が生まれます。

従業員がAIを主体的に活用できる環境を整える

厳格な運用ルールを強制するよりも、目標と裁量権を与えたほうが、AIの導入や定着が進みます。個人の自主性を尊重した上で、プロンプト集の共有や成功事例の可視化、ガイドラインなどの有益な情報を提供することで、行動を制約するのではなく、安心感を持って行動できる土壌を育みます。

人間の温もりを大切にする

すべてのやり取りをAIに任せて効率化すべきではありません。感情が大きく動く場面や重要な判断を伴う場面では、人と人との人間味のある対話こそが価値を生み出します。まずは間接部門などからAI活用を開始し、信頼関係を築いてから適応範囲を広げましょう。

フィードバックに基づいて継続的な改善を図る

導入したAIにまつわる体験を定量・定性的に評価し、顧客や従業員からの声を継続的に反映させ、コミュニケーションの改善を図りましょう。実際に今回の調査でも、フィードバックを基づきAIを活用することで、請求処理に要する時間を2時間からわずか2分へと短縮し、患者の利用体験を向上させた医療機関の事例が報告されています。

管理体制と指針を整備する

従業員の自主性は、体系的な研修やプロンプト集の提供、そして部門横断で組織の導入を支援する推進チームの存在があってこそ最大限に発揮されます。明確な指針や安全体制を整備することで、従業員が安心してAIを活用できるようになります。

専用AIが信頼感を高める

さきほどご紹介したチャットボットの事例を思い出してください。AIツールに強い不満を抱いていた私ですが、翌朝には社内のAIツールを利用して、この体験を検証していました。社内AIは率直で具体的なフィードバックを提示したうえで、最終的な判断については私自身に委ねてくれました。かかった時間の違いはわずか24時間、同じ私という人間が利用したにもかかわらず、得られた体験はまるで別物でした。社内のAIツールは役割が明確に定められており、利用する側が主導権を握ることができていたためです。

組織固有の状況や利用指針、業務知識をあらかじめ組み込んで設計された専用AIは、高い信頼性と安定したパフォーマンスを発揮し、円滑な定着を実現します。従業員がその目的と価値を実感できるのはもちろん、顧客にとっても「自分の状況を誰より分かって適切な手を打ってくれる」AIと対話ができるからです。

こうした取り組みこそが、企業の責任あるAI利用を信頼している消費者の割合をわずか29%から大幅に引き上げるための決め手となるでしょう。自動化をむやみに急ぐのではなく、AIの恩恵を受けるべき人々の総合的な体験を向上させることが重要なのです。


マット・エヴァンズは従業員体験プロダクトサイエンスチームの責任者。ベンジャミン・グレンジャーはクアルトリクスXM Instituteのチーフワークプレイスサイコロジストです。

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