クアルトリクスは毎年、仕事を取り巻く状況をグローバルに把握するために、従業員体験の主な指標を追跡調査しています。この調査からは、従業員体験を形成する要素、体験のあり方を変える原因、そして時代を経ても変わることのないものが見えてきます。
今回のレポートでは、調査結果をもとに考察した2026年の重要なトレンドの各側面を、管理職や組織に向けて明確に解説し、取るべき対応についてクアルトリクスの専門家がアドバイスしています。
従業員体験の現状
近年、ビジネスを取り巻く環境は不透明さを増しており、2026年を迎えた現在も先行きが見えない状況が続いています。企業が次々と押し寄せるグローバルな変化や諸課題に対応していくためには、速やかに変化を受け入れ、進化していく必要があります。そして、その進化を支えるのは「人」です。従業員のモチベーションやエンゲージメントを高めることこそが、変革を実現する鍵となります。
企業が変わっていく一方で、従業員の意欲を高め、行動を後押しする要件は今も昔も変わりません。主なものは以下の4つです。
- 企業の価値観に共感できること
- 学び・成長できる機会があること
- 尊重されていると実感できること
- 明るい未来が待っていると確信できること
ここで重要なのは、「つながり」です。2026年を迎えた今、従業員は現在のみならず、将来も、組織やその経営理念とのつながりを実感したいと考えています。
今回の調査によって、世界中の従業員の大多数が、混沌とした状態(前述)に起因する変化やプレッシャーを感じていることが明らかになりました。しかし、変化やプレッシャーは必ずしも悪いものではありません。毎日同じことの繰り返しで、切迫感もほとんどない業務を想像してみてください。そんな仕事は単調で、達成感も得られないでしょう。2026年に目指すべきは、ほどよい緊張感によって従業員のエンゲージメントや充実感を高め、ほどよい変化によって新鮮味や興味を保ちながら、過度なストレスや燃え尽き症候群、疎外感を生み出さない、ちょうどよいバランスを見極めることです。
当然ながら、今年注目のテーマはAIです。業務の処理速度が上がる、仕事の質が向上する、生産性の向上やイノベーションを促進するという理由で、半数以上の人が仕事で毎日または毎週AIを使用すると回答しています。その一方で、従業員は現在も個人的にAIツールを調達しており、多くの場合は管理職や上司から受ける業務遂行へのプレッシャーが原因となっていることが明らかになりました。このような状況は組織に多大なセキュリティリスクをもたらします。検証されていない個人のAIアカウントをチームで使用すると、データが流出する可能性もあります。
コスト削減は目新しいテーマではなく、「より少ないリソースで、より多くの成果を挙げる」ことを求められる重圧は2026年も変わりません。しかし、短絡的なコスト削減は隠れた代償を伴います。現場のスタッフとしてパートタイム従業員やアルバイトを雇い、新入社員研修の予算を減らせば人件費を抑えられると思われがちですが、対象となる従業員や新入社員は前年より「従業員体験の質が低下した」と回答しています。
従業員体験の質が低下すると顧客体験にも悪影響が及び、不満を感じた顧客が離れてしまいます。
トレンド1 // 革新的テクノロジーは従業員を活性化し、急激な組織変革は従業員を疲弊させる
変化そのものが必ずしも問題なのではなく、その中身や背景こそが重要です。新しいツールやプロセスの導入といったテクノロジーによる変化は、業務を効率化し、仕事を面白くするものであれば、従業員の意欲を高めます。一方で、不安やストレスを生むのは、解雇や人員削減、上司の頻繁な交代や組織再編といった体制面の変化です。
今回の調査で、在職期間5年以上の長期勤続者は、新入社員以上に将来への不安を感じていることが判明しました。長年スキルを磨き、豊かな経験とネットワークを築いてきた彼らは、組織にとって代えがたい「組織知」を備えています。
このトレンドにどう対処すべきか
昨今の従業員の多くはすでに変化を経験しており、今後もさらに続くと予測しています。現状維持は停滞を意味し、進歩や挑戦の機会がある仕事が求められています。今回の調査で明らかになったように、従業員の期待に応えるうえで最も重要なのは、変化に対応しようとする彼らに「自分はサポートを受けている」という実感を持ってもらうことです。
長期勤続者とそのスキルを失わないためには、ベテランを大切にし、組織として十分な支援を行い、彼らが安心感を持って業務に臨めるようにしなければなりません。
大きな変革を推進せざるを得ない場合は、従業員の集中力やエンゲージメント、そして生産性をいかに維持するかが重要な課題です。個人を尊重する姿勢と率直な双方向の対話によって、変化の渦中にあっても、組織と「つながっている」と実感できることが、成功への鍵となります。
トレンド2 // 従業員はAIを活用して生産性向上へのプレッシャーに対応している - 組織の支援がなくとも
当然のことながら、従業員は仕事の品質とスピードを向上させるためにAIを活用していますが、上司からプレッシャーをかけられている場合はその傾向が強くなっています。
今回の調査では、従業員の52%が「業務でAIを高頻度(毎日または毎週)に使用している」と回答しており、この割合は前回調査から7ポイント増加しています。
また、AIによって以前はできなかったことができるようになり、自分だけでなく、組織の新たな可能性も広がったという回答も見られました。
その一方で、自身の生産性を高めるためにAIツールを個人的に調達している従業員が過去数年と比較して増加していることも明らかになりました。その主な原因は、組織側が安全なAI利用環境を十分に提供できていないことにあります。組織の重要なデータが管理の届かない個人用AIアカウントを通じて外部へ流出し続ける現状には、セキュリティリスクが潜んでいます。
このトレンドにどう対処すべきか
今になって「AIを使うな」と言うのは現実的ではありません。個人的に調達したAIツールを業務に駆使してきた従業員は、組織の目が届かない場所で使い続けるでしょう。AIが普及した現代において、AIは積極的に受け入れるべきものですが、あくまで組織独自の基準に沿って活用することが重要です。
AIの使用を禁止するのではなく、用途に応じた安全なAIツールを用意し、責任ある倫理的な使い方を指導してください。AIツールの選定にあたっては、従業員のニーズ、ITセキュリティ、法令遵守、そして事業戦略を考慮する必要があります。選定したツールが組織と従業員にもたらす価値も明確にしましょう。
トレンド3 // コスト削減の隠れた代償:従業員エンゲージメントと顧客満足度の低下
そのコスト削減は、真に利益をもたらしているでしょうか。入社時研修予算の削減や、現場の従業員をパートタイム従業員やアルバイトに置き換える施策を妙案だと考える組織もありますが、かえってコストが膨らむ結果を招く恐れがあります。
クアルトリクスが数年前に実施した調査では、新入社員の「ハネムーン期間」が消滅したことが明らかになりました。2026年の調査によれば、この期間がむしろ離職につながるきっかけとなっています。新入社員は、組織の第一印象を決定付ける入社時研修を、最も満足度の低い体験の一つに挙げました。
3年以上の継続勤務意向を示したのは、わずか44%です。これは、生産性の低下や採用し直しの必要性につながるため、企業に多大な損失をもたらす可能性があります。
現場でも同じような状況が生じています。組織の顔として顧客や社会との接点に立つ現場の従業員は、ビジネスに不可欠な存在です。多くの顧客にとって企業の第一印象を左右する存在でありながら、これまで十分に評価・理解されてきませんでした。そして彼らは今もなお従業員体験に不満を抱いています。
- 現場の従業員の63%は、自身の業績改善に役立つフィードバックを得られないことを懸念しており、50%は従来のやり方に異議を唱えることができないと感じています。
- パートタイム従業員の置かれた状況はさらに厳しく、従来のやり方に異議を唱えることができると感じている回答者はわずか46%、自身の業績改善に役立つフィードバックを得ていると答えた回答者は61%です。
接客し、顧客のニーズに応え、リピーターを獲得するのは現場の従業員です。組織が彼らを適切にサポートし、質の高いカスタマーサービスを実現できなければ、顧客の心は離れ、その消費行動は競合他社へと移ってしまいます。
このトレンドにどう対処すべきか
新入社員が初めて出社する日も、顧客が現場の従業員と初めて顔を合わせる時も、その第一印象は心に強く刻まれます。相手に好感を持ってもらえるよう、まずは最高の第一印象を心がけましょう。
幸い、新入社員や現場の従業員の体験を改善できる、シンプルかつ確実な方法があります。
- 良い仕事を適切に認め、フィードバックを提供します
- 率直なコミュニケーションを取る機会を設けます
- 従業員の意見に耳を傾け、顧客の期待に応える価値を提供できるようにします
つまり、従業員が組織とのつながりを実感できるように環境を整える取り組みです。
従業員の声に耳を傾けることが重要な理由
今回のレポートで明らかになった課題を乗り越える鍵は、従業員への傾聴です。組織が従業員の声に耳を傾ければ、それに応えるように従業員の職務意欲やモチベーションも向上します。
傾聴の回数を増やした企業では、従業員エンゲージメント、継続勤務意向、ウェルビーイング、インクルージョンが高い傾向を示しています。こうした企業における従業員体験は、状況に変化がなかった企業と比べて明らかに良好であり、回数を減らした企業を大きく上回る結果となっています。
組織が変化に対応していく上で、従業員への傾聴は不可欠です。それにより、以下のような効果が期待できます。
- 重要な議論のテーマや潜在的な問題点が明らかになります
- 従業員と上司の間に一体感を醸成します
変化を乗り越えるには、従業員、特に長期勤続者の声に耳を傾けることです。どのような不安を感じ、上司にどんな支援を望んでいるのかを問いかけてみてください。そして、話を聞くだけでなく、行動を起こすことでその声が届いていることを実際に示しましょう。
AIの使用に関しても、従業員の声に耳を傾けなければなりません。従業員がなぜAIを使用しているのか、どのように活用しているか、何を必要としているのかを把握すれば、用途に応じた安全なツールを提供し、適切に管理することができます。また、AIの利用状況やAIに対する意識も定期的に調査し、提供しているツールが従業員と上司双方の要件や期待に応えているかどうかを確認する必要があります。
現場の従業員やパートタイム従業員の意欲を高めるための取り組みに巨額の予算は必要ありません。管理職がこまめにフィードバックを行い、キャリアに関する誠実で配慮の行き届いた対話を心がけ、部下の創意工夫や自律性を尊重するだけで、成功事例や問題点が自然と現場から伝わってくるようになります。
従業員の声に耳を傾けることはそれ自体に価値がありますが、本当に重要なのはその後に続くアクションです。
さあ、最初の行動を起こそう
クアルトリクスの「2026 従業員体験トレンドレポート」では、ここでご紹介した3つのトレンドとその裏付けとなるデータを詳しく説明しています。
このレポートには専門家による分析結果に加えて、組織心理学や体験管理のエキスパートによる解説を掲載しています。従業員一人ひとりの体験と顧客体験を同時に高めながら、そのインサイトを企業の成長へと結びつけるためのアドバイスを多数ご紹介しています。