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従業員エクスペリエンス

調査結果共有の基本ルール

(「EXあるあるシリーズ」その 5)

はじめに

前回のブログでは、調査結果の分析・解釈の仕方について説明しました。調査結果を最初に受け取るのは、一般的にはプロジェクトチーム、役員や各組織のマネージャーでしかありません。彼らが調査結果を分析・解釈し、納得するだけでは、何ら変革は実現しません。アクションプランを検討していくにあたり、自組織の所属員に対し調査結果をどのように説明・共有するのか。今回は組織内での調査結果共有のステップにおける主要なポイントを論じてみたいと思います。

「EX あるある」シリーズ: 既出のブログはこちら
第 1 回: 従業員向け調査を実施するにあたって
第 2 回: 調査の実施時期を決めるための検討項目
第 3 回: 従業員向け調査の設問設計で知っておきたいこと
第 4 回: 調査結果の分析・解釈の基本ルール

調査結果を
共有することの意味

組織別に調査結果が取りまとめられると、プロジェクトチームを通してマネージャーに伝えられ、続いて各組織で所属員に対して結果を開示するように展開するのが一般的です。この際、検討が必要となるのは結果を「開示するかしないか」ではなく、「いつ、どのような場で、どこまでの調査結果を開示するか」ということです。開示すること自体は当たり前のことで、改めて検討する余地はありません。

従業員にとって、調査に参加すること自体が一つの「体験」であるわけですが、改善を期待しながら真面目に回答した従業員ほど、その結果については関心があるはずです。それに対して、何もフィードバックがなかったとしたらどうでしょうか。「あの調査って、どうなったんだろう?」という素朴な疑問は、「何か不都合な事実があって開示できないのでは?」という不信感につながり、いずれ「どうせ何も改革する気がないのでは?」という失望感、そして最終的には今後の調査に対する協力意欲も失せてしまうことになりかねません。

そもそも調査結果を共有しないことは、組織単位で改善アクションを実行しない、あるいは実行するにしても所属員の意見が反映されていない取り組みであることを意味します。経営陣や人事部が全社レベルの改革の材料としてのみ参考にする調査であれば、それでも成り立つかもしれません。しかし、各組織で課題を見出し、少しでも働きやすい職場を実現しようとするのであれば、そこで働いている従業員が結果の解釈に納得していることが出発点になります。そして、従業員の納得を得るためには、自組織の結果について議論する場があり、現状を良くするために各自が知恵を出し合うプロセスが必要となります。

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調査結果を
共有する際にすべきこと

自組織の調査結果をマネージャーがフィードバックするに当たり、是非とも実行していただきたいことがいくつかあります。主要なものとしては下記のような行動です。

  • 調査結果を入手したら、できるだけ早いタイミングで所属員と共有する
  • 調査結果の活用目的を明確に説明する
  • 組織の責任者自らが自組織の結果を語る
  • 調査結果から読み取れる事実を、そのまま正確に伝える
  • 課題のみにフォーカスするのではなく、自組織の強みも把握する
  • 特定の個人の課題ではなく、組織全体が抱える課題として捉える
  • 原因・背景について、所属員との議論を通して、調査結果の解釈を深める
  • 議論に基づく今後のステップに関して説明する

これらのポイントをひっくり返すと、そのまま「すべきでないこと」のリストになりますが、中でも注意すべき点は、望ましくない結果に対して「犯人探し」をすることでしょう。そもそも、従業員意識調査の原則として、率直な声(正しい回答データ)を集めるために匿名性が担保されていることが挙げられます。しかし、手にした結果を元にマネージャーが「誰がどう回答したか」を探るような行動をとれば匿名性が崩れ、正直に回答することに不安を抱くようになります。よって、改善を要する結果が一部の従業員が抱える問題であったとしても、それを組織にとっての課題として捉えるような姿勢が求められます。

結果を組織内で議論し、
腹落ちしてからアクションへ

調査結果を共有するステップは、アクションプランを策定し、実行していくステップの前段階に位置付けられます。当事者として調査結果が腹落ちしない限り、「やっているふり」をするだけの空虚な取り組みになってしてしまうでしょう。結果共有を通して、「我々はこの課題を改善しなくてはいけない」という義務感ではなく、「この課題に対してこうしたい、組織としてこうなりたい」という前向きな雰囲気を醸成するように心がけたいものです。

では、所属員が調査結果について納得するために、どんな行動が求められるでしょうか。結局のところ、調査結果を踏まえて、従業員が各自の立場から組織内の現状をどのように認識していて、何に課題を感じているのかを、マネージャーを中心に率直に対話することからスタートさせるしかないと思います。どんな従業員意識調査においても、同一の設問に対する回答に顕著な差が示される切り口は、職位別や組織別の分析結果です。従業員の立場により現状の認識の仕方は自ずと異なります。多様な視点があることを理解するだけでも、課題をより深く理解し、有効なアクションを検討する上で重要な一歩となるはずです。

誰に対して、何を開示するのか?

もう一つ、調査結果共有のプロセスでよく話題になるのは、具体的に誰に対して何をどのように開示すれば良いのかという点です。もちろん、「誰に」という点は、一部ではなく、全従業員とするのが基本ですが、「何を」(調査結果のどの範囲)開示するのかとなると意見が分かれます。例えば、開示の対象とする組織レイヤーをどこまでにするのか、全設問項目の結果を開示するのか、さらに年齢別、性別、資格別などの属性別結果をどのように扱うのか、などに関して、悩まれる企業が少なくありません。

組織内の透明性を保ちながら、調査結果をありのままに共有することが重要という観点からは、範囲を限定せずに開示することが理想的な姿となり得ます。その判断は、各組織のカルチャーやこうした取り組みに対する成熟度にもよります。例えば、全社平均を大きく下回る結果を受け取った組織では、前述の「犯人探し」が始まったり、所属員がやる気を失ったりするリスクも考慮しておく必要があります。特定の回答をした従業員をイメージしやすいような属性別結果、自組織にとって課題と捉える必要がないセンシティブな項目については開示せず、強み・改善課題として注視すべき項目のみをフォーカスして従業員と共有することが当初の有効策となる組織もあるでしょう。

有意義なアクションに繋げるために

最後に、マネージャーが調査結果を共有する際の心構えについて確認しておきたいと思います。最も重要な点は、調査結果は学校の通信簿のような優劣を明確化するものではなく、人間の健康診断の結果と同じで、気になる項目に対して何らかのアクションをとる「根拠」として活用するものであるということです。働いている人であれば、自分の職場に活気があり、周囲と協力しながら自身の力を最大限発揮できるような環境を望まないはずはありません。前向きに、建設的に、自組織の結果を受け止めて、改善策を検討するために、所属員に参加してもらうことは不可欠です。自分たちの課題として認識し、それに対して何かしてみようという自主性があるかどうかが、後の改善活動の成否を左右する要因となります。

本稿では、調査結果の開示に関連するリスクについても触れましたが、それ以上に留意すべき点は調査結果が開示されないことで問題が放置され、従業員の不信感やエンゲージメントの低下を招くことです。そう考えれば、調査結果を共有することの重要性を再認識していただけると思います。

 

クアルトリクスの
従業員エクスペリエンス (EX) ソリューション

トピック EX

市川 幹人

クアルトリクス合同会社
EX ソリューション ストラテジー シニア ディレクター

人事・組織コンサルティング会社の従業員意識調査部門のリーダーとして、様々な業界のリーディング企業に対し、従業員の声を収集、分析、アクションプランニングまでの組織改革活動のサポートに豊富な経験。クアルトリクスにおいては、長年のリサーチ、コンサルティングの実績をベースに、従業員エクスペリエンス(EX)分野の活動の支援、社外への情報発信などを担当。

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