企業の持続的な成長において、「体験価値」の向上が不可欠であることは、もはや疑いようがありません。しかし、それをスローガンで終わらせず、具体的な経営の力へ転換するには、何が必要なのでしょうか。
クアルトリクスは「顧客と従業員、2つの体験価値を経営の力に」と題したセッションを東京オフィスで開催しました。本セッションは、「顧客体験」「従業員体験」の観点から事業戦略の策定や組織の意思決定を担う皆様を対象に、実践的な知見を交換する場として企画。今回は、店舗を主要都市・全国にかまえる物流業界から2社をお呼びし、B2C事業においての顧客体験(CX)と従業員体験(EX)の両視点からご講演いただきました。本記事では、その貴重なセッションの模様をレポートします。
【CX事例】体験重視の組織風土をいかに醸成するか ~全社展開に向けたマインドチェンジ~
「『絶対に潰れない会社』ではない。お客様に選ばれなければ、市場から撤退もあり得る」。経営企画部 CX戦略室長は、強い危機感を示し、講演をスタートしました。
社長のトップダウンで2024年にNPS®を導入し、CX戦略室を新設。当初は手探りだったものの、データ分析から「NPS®と収益性の明確な相関」や「競合との具体的な差」を突き止めます。例えば、NPS®の推奨者は批判者に比べ、年間利用回数が約3倍、物販購入額は約3.3倍という事実は、強力な説得材料となりました。
一方で、巨大組織ならではの「新しいことへの抵抗感」という壁も。特に印象的だったのが、社員の「横文字への強い拒否反応」です。そうした組織風土で「CX」や「NPS®」を浸透させるため、キャラクターを使った対話形式の社内報を発行するなど、現場に寄り添う地道な工夫のエピソードが共有されました。
「顧客の声」という客観的データを軸に、いかにして社員の納得感を醸成し、全社を巻き込んでいくか。同社の挑戦は、多くの参加者に示唆を与えるものでした。
【EX事例】人財が集まる魅力ある企業へ 〜エンゲージメントを軸とした変革と戦略の実現〜
次に登壇した酒類・食品サービス企業様は、大きな変革の最中にあります。酒類市場が二分の一に縮小するという厳しい環境下で、祖業の「販売」に加え、「物流」を新たな事業の軸に据える、事業編成を伴う大きな挑戦です。
同社が強調するのは、「事業成長のカギは、まず『人が集まる企業』になること」。従業員が心から「働きたい」と思える会社こそが、お客様に価値を提供できる。この信念のもと、従業員体験(EX)の向上を人事戦略の根幹に据えています。
その羅針盤が、エンゲージメント調査です。調査で浮かび上がった「経営陣との距離感」「キャリア支援の不足」といった厳しい結果にも真摯に向き合い、「多様な働き方の整備」「ウェルビーイング向上」等の重点施策に繋げています。フリーコメントは経営陣にとって耳の痛い声も多いものの、それこそが企業のリアルな声だと捉え、次の一手としているそうです。
従業員体験を起点とした、経営戦略実現のための組織変革のリアルな道のりが語られました。
意見交換・ネットワーキング
講演後は、少人数グループでの意見交換会とネットワーキングが行われました。
「CXとEX、どちらから着手すべきか?」「両者のデータを連携させれば、経営により響く成果指標になるのでは?」といった核心に迫る問いが飛び交いました。また、「スコア改善より、改善し続ける組織文化の構築が重要」というNPS提唱者(フレッド・ライクヘルド)の思想に立ち返る議論もあり、本質的な学びの多い時間となりました。
おわりに
今回のセッションは、普段は接点のないCXとEXのリーダーが互いの課題や視点を共有し、経営目標達成に向け連携の重要性を再認識する貴重な機会ともなったようです。
顧客と従業員、2つの体験価値向上は、まさに車の両輪です。クアルトリクスは、製品提供にとどまらず、今後も企業の垣根を越えて知見を交換し、共に成功を目指す「コミュニティ」の形成を支援してまいります。ご参加、誠にありがとうございました。
次回は、クアルトリクス XMストラテジストによる考察をお届け予定です。